第5章 招かれざる客
バージルはする事もなく、手持ち無沙汰にの後ろ姿を見つめる。
まだ怪我をかばっているような、ぎこちない動き。しかしそれほど動き辛い風でもないのを見ると、案外怪我は治ってきているようだ。
宣言通り、は本当に料理に手慣れているようだった。まあ今まで一人だったのなら、出来てもおかしくはないのだが。
長い髪が、身体の動きにあわせて揺れる。
揺れる髪からのぞく、白い包帯。
バージルは目を閉じた。
材料を切る音。水音。包丁の音。
皿が擦れ合う音。油が跳ねる音。ぱたぱたと動く足音。料理の匂い。
妙に懐かしい気持ちになって、自身に驚く。
子供の時と同じ気持ちになる。あの、料理のメニューを楽しみに待った子供の時と。
ダンテと好きなものを取り合って喧嘩をした。
今となっては、過去の思い出。
今も尚、こんな事を思い出し考えられるとはな…。バージルは苦笑する。
しかし苦笑はやがて失笑に変わり。
―――くだらない…
バージルは目を開けた。
過去を懐かしむなんてどうかしている。こんな事を考えるとは、自分もまだ人間地味ているという事か。
過去は過ぎ去ったもの。過ぎ去ったものは、現在に持ち込むべきではない。
それなのに。母のブロンドの髪との髪は全く違うのに、どこか重ねてしまう自分がいる。
―――…本当に、くだらない。