第1章 絶体絶命
黙ってしまったに、その青く怜悧な男はあからさまに眉をひそめた。
「聞こえなかったのか。何をしていると聞いている。お前如きの力量でこんな場所に来るなど、愚の骨頂だぞ」
はそれにむっとして言い返した。
「愚の骨頂って何よ! 油断しただけじゃない」
「それを愚の骨頂と言うのだ」
───何コイツ…初対面なのに失礼な奴!
か弱い女の子に対して愚はないでしょ! 愚は!
怒鳴りたかったが、息を吸ったところでくらりと目眩がして息を詰めた。
頭がふらふらする。手の感覚が失せる。男の姿がぼやける。
彼は、の様子がおかしいのを見てすっと目を細めた。
───ヤバイ……助かったせいで緊張が解けた…
突然、身体中が猛烈な痛みとも痺れともつかない感覚を訴え始める。たまらずは、数回よろけた後に地面にへたりこんだ。
ようやく気持ちに余裕が出てきた今になってふと自分の腕を見ると、驚く程青白く。
よく生きてたなと逆に感心。
───あ……ダメ…
意識が朦朧としてきて、上半身が傾ぐ。
平衡感覚がつかめず倒れそうな身体を、地面に手をついて支える。
そんなふらふらの彼女を目の前にしているにも関わらず、男はに背を向けようとした。
は慌てて呼び止める。
「待ってよ…。…悪いんだけど、助けてくれない? 死にそう…」
男はを一瞥すると、冷たく言い放ったのだった。
「知らんな。自業自得だろう」
ひどい。
かよわい女の子が見るも無惨にぼろぼろに傷ついているっていうのに、見捨てて去ろうとするなんて…。
絶対人間じゃない。悪魔だ。
どうせ放って置かれるなら、助けなければよかったのに。
あ でも、悪魔に殺されるよりマシなのかな…どうなんだろ。
こんな時に、やたらとくだらない事を考える頭。もう目を開けているのも辛い。
堪らず、は目を閉じた。
ずるずると地面に倒れ込む。
「鬼ぃ…」
「鬼で結構」
男の、さらりと冷たい声。
動じないなんて更に腹が立つ。もっと言ってやる。
「…くそばかぁ…悪……」
そのままは意識を手放し、倒れこんだのだった。