第3章 目覚め
「焦るな」
静かに一言。
の顔も見ずに、バージルがそう言った。
「俺はここにいる。お前もここにいる。必要以上に触れたりはしない。時間もある。言いたいことがあるなら、焦る必要はないだろう」
「…………」
「今は何も考える必要はない」
突然だったためには数回瞬いた。
何だか変な言い回し。もしかして慰めてくれてるの?ていうか何でそんなピンポイントな答えをくれるの。
まだ何か言うのかと思ったが、その後はまたいつものように黙り込んで。
不思議な感じがした。
バージルに「大丈夫」なんて言葉は似合わないような気がしたが、その言葉はに溶けていくように響いていた。
飾られていない言葉。ストレートに胸に広がる。
「うん…」
焦りが一瞬で収まっているのがわかった。バージルは何か特別な力でも持っているのではと思うほど。
はふうっと息をついて、強張った身体の力を抜いた。
バージルは黙々と手当てを続けている。
に触れ、丁寧にあちこちを直していく。
落ち着いているのに焦るような気持ち。どぎまぎとバージルの動きのひとつひとつに反応する。
あり得ない。こんな事はあってはならない。
決めたはず。自分で決めたはずなのに。
───好きなのかなぁ…
否定し続けた言葉。しないと誓った思い。
別れが辛いから、絶対に人を好きになりたくなかった。誓っているから、絶対に人を好きになりたくなかった。
しかし気持ちは戸惑うほど正直にバージルへの想いを告げて。
だからといってはそれを言うつもりはなかった。
好きなら好きのまま。
汚さず、綺麗なまま。
それ以上にも以下にもいかずに、終わらせようと。そう思っていた。
それが一番いいのだと知っている。忘れようにも忘れられない人がいるから。