第2章 侵入者
まだ治りかけの、丁寧に手当てされた傷。少し力を込めればすぐに開いてしまいそうな薄い皮膚。
それは淡く色づいていて、男の嗜虐心を煽った。
「お前、ここ怪我してんじゃねぇか。あ?」
男は、容赦なく傷を押し潰してくる。
「―――――っ!!!」
爪の先でぷつりと傷は開き、血があふれ。
は悲鳴を上げた。
たまらず涙が滑り落ちる。
が、は唇を噛み締めて耐えた。
こんな男を喜ばせるような反応を、返したくなかった。
「あらら。大丈夫か? 血ぃ出てんぞ」
男はわざとらしく驚き、笑う。にはもう反応する気も余裕もない。
走る痛みに目をぎゅっとつぶり、絶望的な気持ちの中で、何かこの状況から脱する手はないかと思考に神経を集中させる。
「たまんねぇな」
ぼそりと男が呟い、その後に。
足にぬるっとした感触。
はびくりと身体を震わせ、驚いて目を開けた。
―――嘘……舐めたの!?
男の舌が赤い。
ちろりと唇を舐め、血を口に運ぶ。
は戦慄した。
負けたくない。それなのに、目の前で笑うこの男が、心底恐ろしくてたまらなかった。