第14章 喪失
また治療室の扉が開く音。中からは医者が。
血まみれの服で出てきた。
それにハッと顔を上げたヒュウイは、掴みかかる勢いで医者に迫った。
「の目は」
「ざ、残念ながら失明…」
「俺のを移植しろ」
バージルは顔を上げる。
「できんだろ? できないなんて言わせねぇぞ」
「おい…ヒュウイ」
「は…ですが…いいのですか? 貴方…」
「いいっつってんだろ! 早くしろ」
「はい。ではこちらに…」
医者はヒュウイを別室に移動させる。
一刻を争うのだろう。腰を浮かしかけたバージルに、更に手短に言った。
「幸い命はとりとめました。怪我も、致命傷に至るようなものはありません。輸血用の血があってよかった。ご安心ください」
言って、扉が閉まる。
「…………」
バージルはどさりと腰を下ろした。
助かった。その言葉を待っていたのに、理解するのにやたらと時間がかかった。
おそらくは、満身創痍の状態になっても攻撃を上手くかわしていたのだろう。それが命を救う事になったのだ。
全くすさまじい奴だと苦笑する。
あれほどの怪我、人間であれば痛みに狂い悶え思考は奪われるはずなのに。
暗殺者の頃の名残だろうか。皮肉なものだ。
ただ、先程の医者の言葉が。
目を移植すると言ったヒュウイに対しての医者の言葉が、バージルは気になっていた。
本人が言わないようにしていたため聞いた事がなかったが、先程の様子だと間違いない。
あいつは、確か───。