第14章 喪失
ヒュウイは銃を投げ捨てた。
転がる屍に剣を突き刺す。
死んだ。が。
重くのしかかる言葉。
畜生、最後に捨て台詞吐きやがって。
簡単に死んだと思えない。だが気にくわない事に、レイの情報は絶対だ。
でももしも。
もしも。
もしかしたら。
ヒュウイはその場から踵を返し駆け出した。
1パーセントの希望を100パーセント込めて、走る。
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バージルは気付けば、集中治療室の前のソファに座っていた。
何か掌が痛い、と思い見てみれば、爪の跡に添って血。強く握りすぎていたらしく、手全体は白くなっていた。
記憶がない。
自分はどうやってを運んで来たのだろう。
確か、魔人化したはずだったが。
ガチャリと治療室の扉が開いて顔を上げる。
中から、血まみれになった看護婦が飛び出して慌ただしく駆けていった。
ドクン、と鳴る心臓。
助かる。助かるはずだ。
急いで運んで来たのだから、助かるはず。
後悔が先に立てばいい、とこれほど強く思った事はなかった。
いつの間に俺は弱くなったんだ、と思うほど。
溢れて止まらないのは後悔ばかり。
なぜ早く行けなかった。なぜ早く助けられなかった。なぜ防げなかった。なぜ守れなかった。
栓のない、事ばかりで。
治療室内から聞こえる医者の声が自分を責める。潰されそうだ。
が…もし、が死んでしまったら。
きっと俺は狂うだろう。
悪魔の世界へ行こう。
そう、確信した。
その時。
「おい!」
走る音と声。バージルの眉間に皺。
見なくてもわかる。ヒュウイだった。
「は」
「まだ中だ」
「目は」
「深くえぐられていた。失明だろう」
バージルは何でここにいる、とか、ヒュウイはなぜが襲われた事を知っている、とか、互いに聞きたい事はいろいろあったはずなのに。
そんなまだるっこしい事は聞く余裕が無かった。
低く重い声が、予断を許さない空気の重さを表す。