第13章 ふたつ
「あんた死ぬぜ」
父親に久しぶりに会ったのに開口一番この皮肉。書斎の入口にもたれかかって腕を組むヒュウイ。
視線の先に、最後に見たのと変わりない父とそのお付きの人。
他人に頼りすぎて自分の身すら自分で守れないってか?
大層なご身分だな。
「久しいな、息子よ」
「次息子っつったら殺す」
父はそれに笑い、付き人を下がらせた。ヒュウイと彼の父以外無人になる。
こちらに危害を与えないと信じているのか、それとも彼に勝てる自信があるのか。
「んな強がんなよ」
「強がってなどいない。不要だから下がらせただけだ」
鋭い眼光。年齢にそぐわない気迫が見える。
おそらく並の人間であれば恐れを為すであろうそれは、ヒュウイにとっては何でもないものだった。
臆病なだけだろう。
無様すぎて笑うしかない。
「あんたさあ」
ヒュウイはだるそうに言う。
前置きなんて飾り、こいつには必要ない。
「に何やってんだよ」
途端。
父親の表情が拭ったように綺麗になった。
綺麗に無になった。
「知らないとは言わせないぜ。あんた、の暗殺組織の長だもんなあ」
にやにや。ヒュウイは笑って言う。
その表情を見た父親は。
この男は全てを知っているのだと悟り、初めて笑顔を浮かべた。
ヒュウイの父、レイ。
ヒュウイ自身こいつに呼ぶ名なんてないと思っている。呼ぶ時はいつも「あんた」。
ルース財閥の長。
捨てても溢れる巨額の富。
表では媚びた笑顔。
裏では殺戮の笑顔。
権利と権威と富と。
それを失わない為には、邪魔な人間を殺す必要があった。
しかしそんな事は堂々とできるはずもない。そこでレイ・ルースは、元がわからないよう何十人も経た上で、暗殺組織を秘密裏に設立。
その何十人と集められた暗殺者メンバーの一人がだったのだ。