第13章 ふたつ
赤い赤い赤い赤い。
元々世界はこんな色?
ああ、やっぱりそうだ。私の髪も赤い。
世界は生まれた時から真っ赤なのね。
舞い演舞は既に終焉。幕を閉じてさようなら。
身体のあちこちが痛い。
嫌な音と嫌な振動。
折れる手足と笑い声。
面白い?
よかったね。
目を閉じた。
目を閉じても視界は全く変わらなかった。
そこでようやく、目を開けているつもりだったのが開けていなかった事に気付いた。
ねえ。なんでそんなまだるっこしい事してるの?
面倒じゃないの?
私痛くて死にそうなんだけど。
何で手首と指の骨まで折ったの。
ナイフ握れないじゃない。
ナイフ握ってこの首を掻き切れないじゃないの。
死ぬなら自分で死にたいのに。
左手は動くのかな。
それすらわからなかった。
億劫な瞼を緩く開ける。
やっぱり赤。
そうしたら不意に。
不意に、真っ青が見えた気がした。
バージルはカツンと足を止める。
震えている自分に気付いて愕然とした。
この向こう側から笑い声がする。
楽しさから来るものなんかではない。狂気じみた凶器と狂喜を孕む残酷残虐なもの。
しかしそれに震えているわけではもちろんなかった。
その、狂気凶器狂喜が向けられている相手に。
震えが止まらない。予想が違っていればいいと。
祈るような気持ちで足を進めるバージル。
違っていればいい。きっと違う。違っていてくれ。違っていなければならない。
足を持ち上げて前に押し出し踵から地面につける。
4歩。
目の前が開け、視線を左に向けた瞬間。
世界を呪った。
世界に憎悪した。
何かが生まれた。
何かが凍りついて
何かが燃えた。
思考は停止。
衝動と衝撃と驚愕と恐怖。
全身の血が下がった。
刀を思わず落としそうになり、吐き気を堪えるのと共に強く握る。
漂う鉄の匂い。
目に映るのは赤ばかり。