第13章 ふたつ
しかしここはヒュウイの家でもある。声帯網膜指紋全ては登録されている。
入るのには照合をして中の者と2、3言葉を交わすのみ。
それを彼は。
ガシャァン!
拳で叩き割り、警報器が作動したと同時に数歩下がった。
これは警告であり忠告だ。こんなものを置いた所で何の意味も持たないという意思表示。
そして、せっかく玄関に回ったにも関わらず、横の塀にひらりと飛び乗って中に入る。
「ったく…めんどくせー家だな」
遠くでざわめきが聞こえ、ばたばたと駆けてくる足音。無視をしてすたすたと中に入る。
ドアなんか関係ない。鍵がかかっていれば壊すまで。
俺の足を止めてくれるな。
殺気立って駆けつけた警備員が見たものは、完璧を誇る扉のセキュリティが見るも無惨に破壊されている姿。
そしてかつて破壊魔と呼ばれた、異端の息子。
「ヒュウイ…様…!」
3年以上家をあけていた彼に見覚えがあるのか、数人が驚いた顔。そして新入りと見られる数人が不思議そうな顔。
ヒュウイは本家の入口の前でぴたりと足を止め、ちらりと横目で見る。
あぁ、いたっけなこんな奴。その程度。
すると呆然としていた数人が思い出したようにひざまづいた。いまいち状況のわからない新入り警備員も頭を押さえられ膝を折る。
そしてヒュウイを知る者のみが、緊張しながらも次々と発する言葉。
「お帰りなさいませヒュウイ様」
「…………」
国随一を誇る、世界でも指折りの大財閥ルース家の一人息子。
正真正銘ただ一人の後継者。約束された未来。確定的な地位。
そして破壊魔。
「…親父は」
「書斎に」
それだけ交わして、ヒュウイは中に入って行った。
父の部屋へと足を動かす。
全てを気付かせてやる。