第12章 舞踏
澄んだ音と同時に身体を横に流したのは、勘でしかなかった。しかしその勘は正しく、紙一重での髪をかすめる刃。
鋭く光るそれを見て瞬時に間合いを取り、相手の顔を見る。
見たこともない男が前に一人。その後ろに二人…三人。
「……誰?」
見知らぬ人にいきなり斬りかかられるような覚えはない。記憶を探っても引っかかりもしない。
道を尋ねるにしても、この挨拶はやり過ぎだろう。
しかし訝しげなとは反対に、男達は笑っていた。
にやにやと。獲物を見つけたように。
勝利を確信した笑み。
「だな?」
問い。
「……だったらどうだっていうの」
答え。
男達は構える。
構えて、獲物を見据える。
「なら、文句はねえ」
跳躍。
はわけのわからないまま、素早くナイフを手に掴んだ。
ガキィンと刃がぶつかる音。
息切れと動悸。くるくる回る世界。
4人に四方八方から攻められて、はまるで踊るように身をかわしていた。
全く未だにわからない。この男達は誰なのだろう。
今まで仕事をしてきた組織の者でもなさそうだし、敵討ちという風でもない。
勘違いか人違いでもしているのではないだろうか。余計な血は流したくなかった。
なるべく避けて。もし勘違いだった時自分が不利にならないよう、相手には傷をつけないように。
全く、甘い考えになったものだ。
けれどこれ以上、人を殺したくない。
それでも男達は、斬っては打ち殴っては刺し。
始めは余裕でかわしていたでも、長時間それが続けば体力的に限界が来る。
くるくる。
くるくる。
切り傷が増えて。
刺し傷が増えて。
そのうち地面が紅くなって。
このままでは埒があかない。反撃に出なければ自分が死ぬ。
4人の腕は揃いも揃って上の位。
ナイフを握るの手が震えた。