第12章 舞踏
「ああ、見た見た。銀髪の物凄い美形だろう? 細長い刀を持っていた」
「そうです。どっちに行ったかご存知ないですか?」
尋ねると、老婆は記憶を探るように首を傾げた。
辺りを見回して、やがてひとつの道を指す。
「あっちに行ったと思うよ。若い女に寄り付かれて騒がれていたから間違いない」
「そうですか。ありがとうございます」
ぺこりと一礼し、は歩き出した。やはりあの容姿だと相当目立つんだなとぼんやり思う。
銀髪で長身でスタイル抜群で超美形。
そんな彼が一人で歩いていれば、女が寄り付かないわけがない。
絡まれて困っているバージルを想像し、は少しおかしくなった。
女の人に慣れていない彼では、かなり戸惑っていたのだろう。振り払うのに苦労とかしたのかもしれない。
それにしても、とは思う。
妙に視線を感じる。気のせいだろうか。
いや、この自分に限って気のせいなんて事はない。
ひそひそ話をされている気分。私を見て何か言ってる?
そんなはずはない。仕事の時はいつも顔を隠していたし、私が暗殺者だという事はごくわずかな人間しか知らないのだ。
なのに。
は目を細める。確実に、私を見ている。
どうして。どうして私を見るの。
ただ紅い髪が珍しいからというような理由ではない。何か物騒なものを見るような。
視線。視線。視線。
おかしくなりそう。
無意識のうちに手が、腰に潜ませているナイフを探った。
硬い無機質が触れて安堵。
大丈夫。
その時。
「見ーっけ」
ひうん、と風を斬る音がした。