第12章 舞踏
バージルは来た道を戻っていた。正確に、同じ道を戻っていた。
巻き戻しが出来たらよかった。家を出なければよかった。
にあんな事をしなければ、こんな事には…。
冷酷な表情で風を斬って歩く。視線一つで通行人は退いた。
しかし気持ちはまるで嵐。
300人を軽く超えた数字に実感がわかず、それでもが危ないのだという事はわかって。
今までいつ殺されてもおかしくなかった状況に寒気がして。
いつかの泥棒を思い出して。
考えれば考えるほど焦りは募る。もっと早くに役所に寄っていればと、らしくもなく後悔。
無事で。
どうか無事で。
万が一にも、自分を追ったりしていない事を祈り。
それでもざわつく胸の内は何だ。
ふと、規則正しく響いていた靴音のリズムが歪んだ。
バージルは眉根を寄せる。
なぜだ。なぜ俺はこんなにも急いでいる。
の側にはヒュウイがいるはず。認めるのは癪だが、あいつの腕はまあまあだ。敵が来たとしても目ではないだろう。
それにが俺を追う事をヒュウイが易々と許すとも思えない。
はヒュウイに好意を抱いていたし、ヒュウイもまんざらではなかったはず。ならば今頃…
「………」
苦虫を噛み潰したような表情。嫌な考えに辿り着いてしまった。
心配ない。
心配はいらない。
いらない心配はしない方がいい。
戻ったとしても俺にできる事は何もない。こんなのは戻りたいがためのこじつけにしかならない。
関わらない。
家を出る時に決めたはず。
なのに。
波紋が広がるように、人のざわめきが聞こえた。