第7章 哀傷…
翌日…
屋敷の中はいつになくしんと静まり返っていた。
そうか…
月に一度の休暇か…
お爺様の代からだろうか…、日々僕達家族のために尽くしてくれる使用人達に、月に一度だけは…と、休暇が与えられるようになった。
それが今日だ。
「あら、翔なの?」
「母様…。あ、どこかお出かけなの?」
階段から降りてきた母様は、いつもよりも濃い化粧を施した顔を、つば広の帽子で隠すように被り、身体の線がはっきりと分かるようなドレスを身に着けている。
「ええ、今日はお父様が、ご友人のパーティにご招待をお受けになったようだから…」
さも面倒臭そうに言い捨てると、項に落ちた後れ毛を、細い指で掻き上げた。
「珍しいね、母様がご一緒するなんて」
滅多なことでは屋敷を出たことのない人なのに…
「仕方ないわ。先方が夫婦で、と仰ってるようだから…」
成程、そういうことか…
そうじゃなければ、母様がわざわざ着飾ってまで出かけることはないだろう。
それも父様となんて…
「お帰りは…? 遅くなるの?」
「そうね、遅くなると思うわ。あなたは? どこか出かけるの?」
「大学に顔を出そうかと…」
でもそれも止めだ。
潤も帰省してるし…
使用人もいないのに、僕まで出かけてしまったら、智子が一人になってしまう。
それがどうしても嫌で…
僕は母様に嘘をついた。