第7章 哀傷…
それ以上照を問い詰めることは、僕には出来なかった。
照の毅然とした姿が、僕にそれをさせなかったんだ。
「分かった。もう行って? 済まなかったね、手荒な真似をして…。明日は休暇なんだろ? ゆっくりしてくるといいよ…」
壁に叩きつけた拳が熱を持ち始めるのを感じて、僕はそっと照に背を向けると、机に向かい突っ伏した。
「坊ちゃん、あの…」
「いいからもう行って…」
「はい…。では私はこれで…」
僕の背後で、ぱたりと扉が閉まるのをきっかけに、僕は伏せていた顔を上げ、握り締めた拳に歯を立てた。
赤く、血が滲む程強く…
照はやはり知っていたんだ。
それはあの一瞬見せた戸惑いの態度からも明らかだ。
でも父様や母様にこの上ない忠義を立てている照のことだ。
きっと何度尋ねたって結果は同じことだろう。
僕はどうしたら…
この胸の中に広がる黒い靄(もや)を、どうしたら消し去ることが出来るのだろう…
僕はそっと瞼を閉じ、その裏にあの夜庭から見たあの光景を思い浮かべた。
あれは紛れもなく智子だった。
疑う余地などない。
あの日の智子は、確かに様子がおかしかった。
今まで見せたことないような、まるで売春婦のような化粧と衣装で装い、妖艶なまでの雰囲気を身に纏っていた。
かと思えば無邪気に振る舞い、昔と変わらない姿を見せる。
智子…お前は一体どれだけ僕の心を惑わせるつもりだ…