第13章 特別編「偏愛…」
二宮が去り、一人になった僕は、明かりの消えた病室で、窓から見える月を見上げていた。
そして思った。
初めは二宮が嘘を言っているんだとばかり思った。
僕の為を思って、二宮が全てを無かった物として、智翔の存在ごと消してしまったんだと、疑いもした。
でもそうじゃない。
二宮は本当に何も知らないんだ。
僕が最後に見た人影も、二宮ではない。
おそらく、あの後姿を消したというあの男だ。
あの男が智翔を…
だとすると、僕のこの手が届かない、どこか遠くの地で、智翔はまだ生きているかもしれない。
仮にそうだったとして、もし生きていてくれるのなら…
いつか…、で良い。
何年…、何十年先でも良い。
小鳥の囀のような声で「お父さん」と呼んで欲しい。
庭先に咲いた、名も知らない大輪の花のように、輝く笑顔を見せて欲しい。
柔らかな手と、触れたら折れてしまいそうな細い腕で、僕を抱きしめて欲しい。
智翔…、また君に会いたい。
ただ、そう長くは待てないだろうな…
お母さんが寂しがるからね。
お母さんは僕がいないと駄目な人だから…
いつかは分からないし、例えその日が来たとしても、僕の冒した罪が許されることはないかもしれないけれど…
それでも僕は生きるよ…
どんなに苦しくても、どんなに寂しくても…
どんなに君達に会いたくて涙を流したとしても…
時に許しを請いながら、罪を背負って生きて行くよ。
それで良いだろ、智子…
「偏愛…」ー完ー