第7章 哀傷…
照は壁に凭れるようにして身体を滑らせると、その場にぺたりと座り込み、顔を皺だらけの両手で覆った。
「知っているんだね? 僕は何を聞いても驚いたりしないし、お前をせめたりはしないから…。どうかお前の知っていることを僕に聞かせてくれないか?」
僕は照の目線の高さまで膝を折ると、ゆっくりとその皺だらけ手を取った。
若い頃から、結婚すらせず、この家のために尽くしてくれた照の手は、酷く荒れている。
「僕はね、幼い頃からお前だけが頼りだったんだ。父様も母様も、誰一人として僕を見てはくれなかった。でもお前は違った。僕は照のことを、本当のお祖母様のように思っているんだよ?」
嘘ではなかった。
照は僕が幼い頃からずっと、僕の味方だった。
どんな時も…
「そんな…勿体無いお言葉…。ですが坊ちゃん、私にはやっぱり…」
「どうして!」
声を荒げ、拳を叩き付けた僕を、凛とした照の目が見つめた。
「坊ちゃんが私のような者を、そんな風に思って頂けていることは、身に余る光栄です。ですがね、坊ちゃん…? 私には旦那様と奥様を裏切るような真似は…」
「…出来ない、と言うのか?」
鼻先が着く程に顔を寄せ、照を睨めつける。
でも照はそれにも臆することなく、すっと背筋を伸ばすと、
「申し訳ございません」
と、ハッキリとした口調で言った。