第7章 哀傷…
「ぼ、坊ちゃん…?」
普段は見せたことの無い、僕の手荒な真似に、目の前の老婆が一瞬驚いたように、その小さな身体をより一層縮こませた。
その怯えた目を見て、僕は漸く我に返り、
「済まなかった…」
一言謝ると、照の細い腕を掴んだ手を解いた。
「いいえ…。きっとこの婆が、何か坊ちゃんのお気に障るようなことをしたんでしょうね…」
照は何も悪くないのに…
僕に深く頭を下げると、無数に刻んだ皺だらけの顔を綻ばせた。
「違うんだ…。そうじゃないんだ。照、お前は知っているのか、智子の…その…身体の秘密を…」
以前にも尋ねたことがあった。
その時は上手いことはぐらかされてしまった。
でも今日は…
「知っているんだろ? お前は智子がこの家に来た時から、最近になるまで、ずっと智子の身の回りの世話をしてきたんだ」
知らない筈なんてないんだ。
「そ、それは以前にも申し上げた通り…」
そこまで言って、照が一瞬口篭る。
照は明らかに動揺している…
そう感じた僕は、照を壁際に追いやると、逃げられないようなの壁に両手をつき、一回り小さな老婆を見下ろした。
「知っているんだね? 智子の秘密を…」
智子が普通の娘ではないことを…
「そ、それは…。後生ですから、もう堪忍して下さいまし…」
いいさ…
そこまでして僕を謀ろうとするなら、僕にだって考えがある。
「照、僕はね、見てしまったんだ…。智子の身体に、あってはいけないものがあるのをね?」
瞬間、照が驚いたように身体を震わせたのを、僕は見逃さなかった。