第7章 哀傷…
「智…私は…、嬉しいわ。だって父さまが、私のために選んで下さったお相手ですもの…」
智子の華奢な指先が、頬に撫でる父様の手を引き剥がすように包み込む。
「そうかそうか、なんと可愛いことを…。どうだ潤君、智子はこう言っているが…、それでも君は智子の気持ちを慮るつもりか?」
智子の気持ちだと…?
父様は何も分かっていない。
智子が心からこの結婚を望んでなどいない事を、父様は分かっていない。
それにどんなに愛しても、智子の愛を受けられない潤があまりにも不幸過ぎる。
父様…、貴方はなんて残酷な人なんだ…
この結婚が、一体どれだけの人を不幸にするのか…
この僕だって…
「お話の途中だけど、僕はこれで失礼します。今日中に仕上げてしまわないといけない課題があるので…」
膝にかけた布巾をくしゃりと丸めると、それを乱暴にテーブルの上に置いて、僕は席を立った。
一瞬、智子が縋るような目を僕に向けたけど、これ以上この場にいたくなかった。
僕は後ろ髪を引かれる思いで、足早に食堂を出ると、階段を駆け上がった。
「あら、翔坊ちゃん…。もうお食事はお済みで?」
その時、丁度智子の部屋から出てきた照と出くわした。
僕は照の骨と皮だけになった腕を掴むと、そのまま引き摺るようにして自室へと連れ込んだ。