第7章 哀傷…
智子と潤の婚礼の日取りが決まったのは、それから間もなくの事だった。
珍しく全員が揃った夕食の後の席で、いつになく上機嫌な父様が、智子を膝の上に乗せ、長い髪を指で梳きながら口を開いた。
「智子と潤君の婚礼を、来年早々にも執り行おうと思っているのだが…どうだね?」
着々と準備が進められているのは、僕も知っていた。
でも…、あまりにも早すぎる。
「私は何も申し上げることはございませんので、お好きにどうぞ」
表情一つ変えることなく、母様は出された珈琲の器を、細い指先で摘んだ。
「そうか。で、潤君はどうだ?」
そう言った父様の手が、智子の細い腰を撫でる。
瞬間、僕の胸の奥で、チリチリと焔が燻り始める。
僕の智子に触れるな!
心の中で強く叫ぶのに、それを口にすることは出来なくて…
僕は膝の上で握った拳を震わせた。
それは僕の隣りに座る潤も同じで…
元々端正な顔を、更に引き締めながらも、テーブルの下では密かに拳を握りしめていた。
「俺に依存はありません。ただ…智子さんはどうなのかと…」
「ほう…、智子の気持ちか…。智子、お前はどうなんだ? 潤君と夫婦になるのは嫌か?」
腰を撫でていた父様の手が、智子の頬の傷に触れた瞬間、智子が僅かに身体を強ばらせた。
それは他の誰にも気付かない程一瞬の事で…
でも僕はそれを見逃すことはなかった。