第6章 宿望…
包を剥いて、小さなキャラメルの粒を智子の手のひらに載せる。
すると智子はその小さな粒を鼻先に近づけ、くんと鼻を鳴らした。
「とっても甘い香りがするわ」
そう言って笑った智子の顔には、朝方に見せたあの妖艶さなど一切なくて…
甘いキャラメルを頬張り、顔を綻ばせる智子は、僕の知っている、無邪気で…、それでいて無垢な智子そのものだった。
「ほら、兄さまも食べてご覧なさいよ。甘い香りがお口いっぱいに広がって、とっても幸せな気分になれてよ?」
僕の手から箱を取り上げ、そこから一粒を取り出すと、智子の綺麗な指が包を剥き、中から出て来た小さな粒を僕の口元に運んだ。
「じ、自分で出来るから…」
「だめよ。さあ、お口を開けて下さいな」
一度言い出したら聞かない智子だ。
僕は観念したように、口を大きく開けた。
キャラメルと共に、智子の指が僕の口の中に入ってくる。
「どう? とっても甘いでしょ?」
「あ、ああ…とっても…甘いよ…」
仄かにキャラメルの甘い香りを纏った智子の指先も…
君のその笑顔も…
全てが甘い香りを放っている。
僕は何かに吸い寄せられるように、甘い芳香を放つ智子の唇に、自分のそれを重ねた。
それは…
互いの唇の先が触れるだけの、とても幼く…それでいて甘い甘いキッスだった。