第6章 宿望…
屋敷に戻った僕に、夕食の途中だった母様は、無断で外出したことを厳しく咎めた。
僕だっていつまでも子供じゃないのに…
そして僕は知ったんだ。
この家に僕の自由はないんだと…
僕は絶望にも似た気持ちで夕食を終えると、智子の部屋へと向かった。
昼間の捻った足の具合が気になったから…
「智子、僕だよ? 入っていいかい?」
智子の部屋の扉を叩き、声をかける。
すると小さな声で、
「兄さまなの? どうぞ、入ってらして?」
そう返ってきた。
僕はそっと扉を開き、顔だけを部屋の中に入れると、ベットの上の智子に向かって、隠し持っていたキャラメルの箱を見せた。
下宿から戻る途中、舶来品ばかりを扱う店で買ってきた物だ。
「まあ、それはなぁに?」
僕は身体ごと智子の部屋に入ると、後ろ手で扉を閉め、自分の唇に人差し指を宛てた。
「しっ、これはねキャラメルだよ。智子と一緒に食べたくてね…」
「まあ、嬉しい。兄さま、早く下さいな」
ベットの上で動けずにいる智子が、小さな手を僕に向かって差し出す。
「今開けるから、ちょっと待っておいで? それより、足はまだ痛むかい?」
キャラメルの包を開けながら、ふと智子の足元に目を向けると、智子の足には白い包帯が巻かれていて…
僕はその痛々しさに胸が痛むのを感じた。