第6章 宿望…
智子を僕だけの物にしてしまえば…
そう考えたことは、何度だってあった。
でもその度に僕は自分に言い聞かせてきたんだ、
“智子は妹なんだから…”と…
それなのに…
「そ、そんなこと出来るわけないだろ…。第一智子は…」
そこまで言って、僕は口篭ってしまう。
たった一人の親友とも言える二宮に、軽蔑されたくなくて…
「まあ、俺には関係のない事だがな…。ただ…お前には俺と雅紀との仲を取り持って貰った恩義もあるし、それに…」
そう言って二宮は手にしていた文庫本をぱたりと閉じた。
「それ…に…、何?」
「お前がどんな相手に恋い焦がれてるのかは知らないが、俺はお前がそんな辛そうにしてるの、見ていたくないんだよ」
俺が…辛そう…?
「僕は別に辛くなんか…」
ない、と言えるのだろうか?
夜毎智子のことを想い、胸を締め付けられているのに…
それが辛くないと言えるのだろうか…
「抱けと言ったのは、あくまで冗談だ。でも、本当に…心の底からその人のことを愛しているのなら、当たって砕けるのも悪くはないんじゃないか?」
智子を愛している。
その気持ちに嘘はない。
天地神明に誓ったっていい。
でも…
「二宮、僕の話を聞いてくれるか? そして、軽蔑しない、って誓ってくれるか?」
僕は深く息を吸い込むと、それを一息に吐き出した。