第6章 宿望…
沈黙が続く中、二宮が不意に部屋の明かりを灯した。
裸電球一つの部屋は、それでも薄暗く、窓の外に視線を向ければ、すっかり茜色に染まってた。
「そろそろ帰らないと…」
しっかりと根が生えたようになった腰を漸く上げ、再び文庫本に視線を落とし始めた二宮を見下ろす。
「じゃあ、先に失敬するよ…」
ズボンに着いた埃を払い、玄関に向かおうとしたその時、僕の手を二宮が掴んだ。
「…な…に…?」
「そんなに辛いなら、辞めちまえば?」
「えっ…?」
何を言っているのか分からず、戸惑いの視線を向けた僕に、同様に真剣な眼差しで僕を見上げた二宮は、尚も言葉を続けた。
「お前のことだから、どうせ相手はどこぞの深窓の令嬢だろうけど…、どうにもならない相手に恋慕するなんて、俺はナンセンスだと思うけどね」
二宮の言う通りだ。
どうにもならない相手を…それも婚約者のいる妹を思い続けるなんて、自分でもどうかしていると思う。
でも僕は…
「…出来ないよ、諦めることなんて…。僕には出来ない」
僕はやっとの思いで上げた腰を、まるで吸い寄せられるように擦り切れた畳へと戻した。
「智子は僕の全てなんだ。僕から智子を取り上げたら、僕は…」
空っぽになってしまう…
「どうしたらいいのか…僕には…」
「だったら抱いちまえば?」
泣き崩れるように顔を覆った僕に、二宮がとんでもない事を言った。