第6章 宿望…
二宮は勝手知ったる風で、部屋の中央に胡座をかいて座った。
「で? ここに来たってことは、“これ”と何かあったからなんだよな?」
流石二宮だ。
下衆な表現は少々気に食わないが、それも慣れてしまえば、そう気にすることはない。
「良く分かったね? 君には隠し事は出来ないな…」
「くくく…、何年付き合ってると思ってる? もう五年だよ?」
「確かにな…」
その五年の間に、二宮は僕にとって、唯一“親友”と呼べる存在になっていた。
ただ、全てを曝け出せるかと言うと、実はそうではなくて…
智子のことだけは、どうしても話すことが出来なかった。
実の妹を愛してる、なんて…
軽蔑されるに決まってるから。
「そう言えば、彼とはまだ?」
二宮が鞄から出した文庫本に向けていた視線を上げる。
「雅紀のこと? うーん、相変わらずかな…。まあ、仲良くはしてるけど?」
そう言った二宮の顔は、仄かに赤く染まっていて、幸せそうなのは、その表情からも見て取れた。
「そっか…。なら良かった」
「まあな…。で、お前はどうなのよ? いるんだろ、好きな女が…」
“女”と言う言葉に、僕の脳裏にあの窓辺に写った影が浮かんだ。
あれは確かに智子だった。
でも、あの影には、女である筈の智子には、あってはならない物が、確かに着いていた。
だとしたら智子は…“女”だと言えるのだろうか…