第6章 宿望…
智子をベットにそっと横たえる。
すると、
「潤さんは駄目よ?」
智子が悪戯っぽく笑って、部屋の入口に立ったままの潤に向かって言った。
「どうして? 俺は婚約者なのに…」
それに研修中とは言え、医師だ。
その潤を制するなんて…
「あら、だってまだ婚約者でしょ? 結婚前に、お部屋に殿方を入れるなんて、レディのすることじゃないわ?」
そうでしょ、兄様?と、智子のびーどろのような瞳が僕を見上げる。
僕はそれに頷くことも出来ず、ベットから離れると、潤の手から智子の靴を受け取った。
「照に言って、湿布を持ってきてくれないか? それと、お医者様を頼む」
僕はそれだけを告げると、後ろ手に智子の部屋の扉を閉めた。
期せずして二人きりになった智子の部屋は、以前母様に隠れてこっそり入った時とは、全く様子が違っていて…
赤く塗り尽くされた壁は、僕の視界に閃光のような物を走らせ、同色で揃えられた調度品の数々は、二宮の店で知り合った女の、胸の大きく開いたドレスのように下品な物に映った。
「兄様、どうなさったの? さっきからずっと難しいお顔して…」
「い、いや…、なんでもないよ? それより足は? 痛むかい?」
僕は心の中まで見透かしてしまうような智子の視線から逃れるように、熱を持ち始めた足首の下に、柔らかな枕を宛てかった。