第6章 宿望…
潤の嫉妬に満ちた視線を、痛い程に感じながら、僕は伸ばされた智子の手を取り、そっと抱き上げた。
智子は躊躇うこと無く、僕の首にしがみつくように両腕を回した。
その時、不意に僕の手が智子の胸に触れた。
以前よりも僅かに増した膨らみに触れた瞬間、下腹部に俄に痛みを感じて…
熱を持った顔を、智子に気取られないように背けた。
それと同時に蘇る、昨夜思いがけず見てしまった、あの淫靡とも思えるあの光景…
いけない…、忘れるんだ。
今僕のこの腕の中にいる智子は…
僕の知っている智子は、あんなはしたなくも淫らなことをしたりはしない。
それに父様だって…
「兄様…? 何を考えてらっしゃるの?」
「えっ…、いや…、何も…?」
不意に言われて、僕は思わず口篭ってしまう。
僕が考えていることを知ったら…
この熱くなった下腹部の理由(わけ)を智子が知ったら…
智子はどう思うのだろうか…
軽蔑…するんだろうか…?
僕は智子を抱いて勝手口から屋敷に入ると、何事かと慌てふためく照を何とか宥め、二階への階段を上った。
智子の靴を手に、顔を引き攣らせた潤が、智子の部屋の扉を開く。
「入っても…いいのかい?」
「勿論よ? だって私、歩けないもの…」
「そ、そうだったね…」
以前は入る事すら許されなかった智子の部屋に、僕は足を踏み入れた。