第6章 宿望…
「手…離して下さらない?」
細い腰に巻き付いた僕の腕を、智子の小さな手が掴む。
「あ、ああ…すまない…」
僕は咄嗟に腕を解き、智子が一歩踏み出したが…
「痛っ…」
智子が小さな悲鳴を上げて、その場に蹲った。
「どうしたんだい、智子?」
「足首を捻ったのかもしれないな」
狼狽えるばかりの僕を押しやり、潤が智子を軽々と抱き上げ、近くにあった木製の長椅子に座らせた。
「どれ、見せてご覧?」
下衣が汚れるのも構わず、その場に跪いた潤が、靴を脱がせた智子の足を、立てた膝に乗せ足首に触れた。
「どうだい、痛むかい?」
「ええ、少しだけ…」
「どうやら捻挫のようだね。残念だが、椿はまた今度にして、今日はもう部屋に戻った方がいい」
研修医でもある潤に言われて、智子が残念そうに瞼を伏せた。
「そう…、仕方ないわね…。見たかったのに、椿…」
そう言って鼻をスンと鳴らした智子からは、今朝がたに見せたあの妖艶とも言える姿は欠片も見えず…
それどころか、触れたら壊れてしまいそうな…
そんな儚さすら見て取れる。
やはり智子は変わってなんかいないんだ。
僕はそう確信した。
「智子、お部屋に行こうか?」
僕が聞くと、智子は小さく頷いて、両腕を伸ばした。
潤ではなく、僕に向かって…