第6章 宿望…
「そうだね…智子の言う通りだ」
僕は窓とカーテンを閉めると、部屋を出て階下へと続く階段を駆け下りた。
そして勝手口から裏庭へと出ると、肩を寄せ合い、赤く染まった葉を見上げる二人の元へと駆け寄った。
でもいざとなると思うように言葉が出て来なくて…
「お兄様もご覧になって? とても綺麗よ?」
智子が僕を振り返るまで、僕はずっとその後ろ姿を見つめていた。
「あ、ああ…。すっかり秋色に染まっているね」
智子のドレスのように…
唇のように…
葉を紅く染めて…
「あら、お兄様ったらどこで覚えてらっしゃったの? 秋色だなんて…ロマンティックなお言葉…」
智子が僕を訝るような目で見上げる。
少しだけ尖らせた唇は、以前のままだ。
「べ、別に僕は…普通のことを言っただけだよ…」
「あら、そう…。そうだわ、東屋に行きましょう? そろそろ椿が咲く頃だわ」
声を弾ませ、智子が踵の高い真っ赤な靴で駆け出したその時、
「危ない!」
踵が小石を跳ね、智子の身体がぐらりと揺れた。
僕は咄嗟に両腕を伸ばし、倒れる寸前の智子を抱きとめた。
「…気を付けないと…」
「え、ええ…。ありがとう、お兄様…」
本当は、そんな踵の高い靴を履いていることを咎めたかった。
だって智子には、そんな派手な靴…似合わないから…