第6章 宿望…
「ふふ、照は本当に心配性ね?」
遅れて聞こえてきたのは、確かに智子の声だった。
「ささ、皆さまお揃いですよ」
智子…僕の可愛い智子…!
今にも叫び出しそうな感情を抑え、僕は扉の向こう側をじっと見ていた。
それはじゅも同じで…
でも、照に促され、扉の向こう側に姿を表した智子を見るなり、僕の心臓はありえない速度で脈を打ち始めた。
「皆さま、ご機嫌よう」
胸元が大きく開いた、真っ赤なドレスに身を包んだ智子が、そこに立っていた。
違う!
智子じゃない…
僕の知ってる智子は、そんな端ない服を着たりはしない。
それに元の顔が分からなくなるまでの濃い化粧をしたりはしない。
もっと清楚で、それでいて天使のような微笑みが良く似合う少女だったのに…
それが今ではどうだ…
真っ赤に染めた唇の端を上げて笑う姿は、娼婦そのものではないか…
「あら、お兄様お帰りになってらしたのね?」
余りの変貌ぶりに、動揺を隠せないでいる僕に、向かい合わせに座った智子が言う。
それに対してどう答えていいものか、考えあぐねていると、僕の隣に座った潤が少し身を乗りだして、
「智子さん、体調は? もうすっかり良いのですか?」
智子に向かって投げかけた。
潤もやはり僕と同様…、驚きを隠せないのは、その声の震えからも感じ取ることが出来た。