第6章 宿望…
寝不足のせいか、重い身体でベットから這い出し、着替えを済ませると、照が用意してくれた桶で顔を洗った。
それでも一向に冴えることのない頭を軽く振って、僕は部屋を出た。
廊下に出ると、いつもと変わらない風景なのに、何故だかこの廊下が果てしなく続いてるかのように見えて…
僕は一瞬目眩のような物を感じた。
この家に帰って来てからと言うもの、僕はどうかしてるな…
智子は…智子はどうしているんだろう…
まだ眠っているんだろうか…?
僕は智子の部屋の前に立ち、扉を叩こうと拳を握った。
でも、その手が扉を叩くことはなかった。
僕はそのまま智子の部屋の前を通り過ぎ、階下へと続く階段を降りた。
「おはようございます」
食堂へと入った僕は、僅かな違和感を感じた。
母様が座るその隣…智子の席に、昨日はなかった筈の食器が用意されていたのだ。
智子の体調が良くなったのだろうか…
僕は少しだけ安堵して、自分の席へと着いた。
「どうだ、やはり家の方が落ち着くだろう」
「ええ、そうですね…」
父様からの問いかけに、適当な返事を返しながらも、僕の視線は未だ空いたままの智子の席を見つめていた。
その時、
「あら、智子お嬢様…、もうお加減は宜しいので?」
廊下から聞こえてきた照の声に、僕は食堂の入口を振り返った。