第6章 宿望…
裏庭へとに出ると、宵闇がすぐ傍まで迫っているのか、辺りを薄紫色に染めていた。
流石にこの時間に、薄手のシャツ一枚では寒いな…
上着を来てこなかったことに後悔をしつつ、ふと視線を屋敷の二階へと向けた。
どの部屋も明かり一つ灯っていないのに、一部屋だけ…それも煌々とではなく、カーテンの隙間から、僅かな光が漏れている部屋があることに、僕は気付いた。
あの部屋は確か…
普段は鍵がかかっていて、母様ですら立ち入ることを禁じられている部屋ではないか?
その部屋にどうして明かりが?
あの部屋の鍵を持っているのは、父様ただ一人…
だとしたらあの明かりは父様が…?
ならば何も気にすることはないじゃないか…
そう思って視線をその場から逸らしたその時だった。
開かずの間のカーテンがひらりと揺れ、さっきよりも広くなった隙間から、二つの人影のような物が見えた。
あれは…女…、父様…?
目を凝らさなくとも分かる胸の膨らみと細い腰、そして…膝まで届くかのような長い…巻き髪…
その足元に膝を付く格好で腰に顔を埋める…父様に背格好な似た影…
智…子…?
まさか…、そんな筈はない。
大方、どこかの役者風情の陰間か何かだろう…
だって智子は…
智子は“女”なのだから…