第6章 宿望…
窓から差し込む夕陽に、潤の顔が茜色に染まり、その頬にきらりと光一滴を見たような気がした。
もしかしたらこの人は本心から智子のことを…
「で、でもまだそうと決まったわけではないのでしょ? それに貴方は医者だ。何か手立ては…」
「おいおい、俺は医者とは言ってもまだ研修医だ。そこまでの腕は持ち合わせていないよ。それに、君のご両親は…特に義父君は、俺が智子さんに触れることを、酷く嫌うからね」
父様が…?
僕には父様が潤を嫌ってるようには、とても見えなかった。
寧ろ、好感を持っているようにさえ見えたのに。
それに何より、潤を智子の結婚相手に選んだのは、他でもない父様自身だ。
その父様が潤…?
そんなことあり得ない。
「済まなかったね、君にこんな話をしてしまって。ただ…この屋敷には、胸の内を話せる相手がいないものでね…」
潤が椅子を元合った場所に戻し、僕を振り返ることなく部屋を出て行くのを、僕はただ黙って見送った。
その後ろ姿が、僕自身に重なって見えて…
かける言葉が見つからなかった。
同じように智子を愛しているのに…
触れることすら許されないもどかしさが、僕には痛いほど分かったから…。
僕はベットに身を投げ出すと、下宿よりもうんと高い天井を見上げ、ぐるりと部屋の中を見回した。
傷一つない壁も、舶来品の照明も、高価な調度品も…
一体なんの意味があると言うんだ。
智子に触れられないのであれば、こんな物意味なんてない。