第6章 宿望…
悶々とする僕を他所に、潤は尚も言葉を続けた。
「それに、さっき義母君は”女性特有の…”と言っていたが、俺はどうもそれも”嘘”ではないかと思っているんだ」
「嘘…?」
母様が僕に噓を…?
一体なんのために…?
「ああ、そうだ。君や俺を智子さんに近付けないためのね…」
「そんな…。だって貴方は智子の婚約者でもあるのに…」
それに僕だって…
暫く離れて暮らしていただけで、兄妹であることに変わりはないのに…何故…
「それで、父様と母様はなんて? 聞いたんでしょ、二人が言い争っているのを」
尚も食い下がる僕を、潤は待てと言った様子で両手を広げて制すと、僅かに眉間に皺を寄せて、椅子から立ち上がり開け放ったままだった窓辺に立った。
あれ程自信に満ち溢れていたその姿が、今は何とも寂しげに見えて…
僕はそれ以上何も言えなくなってしまった。
時折吹き付ける強い風が、窓を揺らす音だけが響いた。
そして潤が一つ身震いをすると、その顔に困惑とも悲哀とも区別のつかないような、複雑な表情を浮かべた。
「智子さん、子供の出来ない身体だそうだ…」
「えっ…?」
僕はその言葉の意味が理解できなくて、思わず潤の顔を見上げた。
「それは…どうして…?」
漸く絞り出した言葉に、潤が小さく首を横に振り、冷たい風が吹き込み始めた窓を閉めた。