第6章 宿望…
潤が椅子ごと、僕の座るベットの近くまで移動する。
つい身構えてしまうのは、この男が嫌いだからじゃない。
僕の気持ちを一番に理解しているのは、この男だと言っても過言ではない。
智子の婚約者でなかったら、もしかしたら僕達は…
いや、それはないな…
「まあ、そう怖い顔しなさんな…」
長い足を組み替えて、潤がその眉間に深い皺を刻んで、少しだけ困ったように笑う。
「べ、別に僕は…」
「まあいい…。ところで、だ…。いずれお義兄様になる君に、聞きたいことがあってね…」
潤が僕に…?
一体何を?
「それは、智子に関すること…ですか?」
「流石、お義兄様は賢くていらっしゃる」
嫌味な男…
一瞬でもこの男を理解者だなんて思った自分が恥ずかしくなる。
「智子の何を聞きたいんですか?」
「君は智子さんの身体の秘密ってのが何なのか…知っているのか?」
「いえ、僕は何も…」
いつだったか、智子が一度だけ言いかけたことがあったが、それ以降は、一切その話に触れることはなかった。
実際、僕自身も気になっていた。
「聞いてしまったんだよ、君のご両親が智子さんの身体のことで言い争っているのをね…」
父様と母様が…?
僕達が幼い頃から、特別仲の良い両親ではなかったけど、言い争うなんて…
そんな姿、僕は目にしたことがない。