第6章 宿望…
「着替えてきます」
それでも智子の様子が気になって仕方の無い僕は、再び階段を登り始めた。
母様の突き刺すような視線を、背中一面に感じながら。
一先ず自室へと入った僕は、締め切ったままだった窓を開け放った。
途端に冷たい風が部屋に吹き込んで来たが、それでも篭った空気の中にいるよりは、ずっとましだった。
一通り空気の入れ替えを済ませると、今度は一部を残して全ての窓を締め切った。
流石に冷たい風が吹き荒ぶ中、着替えをする気にはなれない。
いつの間にか綻びの出来た上着を脱ぎ、ベットの上に置いた時、部屋の扉が叩かれた。
智子かもしれない。
僕の帰りを聞き付けて、智子が僕の元へ…
僕は逸る気持ちを抑えたながら、扉の取手に手をかけると、ゆっくりと開いた。
「少しいいか?」
扉の向こうに立っていたのは、智子ではなく潤だった。
「なんだ潤先生か…」
「智子さんでなくて済まなかったな」
落胆の色を隠せない僕を他所に、潤はずかずかと僕の部屋へ入り込み、勉強机の椅子に図々しくも腰を下ろした。
誰も入っていいなんて言ってないのに…
僕は洋服箪笥から羽織を取り出すと、それを肩にかけ、ベットの端に腰を下ろした。
「用はなんです?」
話すことなど何もないけど…
僕はさも面倒臭そうに溜息を一つついてみせた。