第6章 宿望…
「離してくれないか…?」
潤の、至極冷静な声が降り注ぎ、襟元を掴んだ僕の手がやんわりと解かれる。
「ったく…、困ったお義兄様だ。妹のことになると見境がなくなる」
乱れた襟元を直しながら、潤が心底呆れたように息を漏らす。
「…済まない。つい…」
潤の言う通りだ。
僕は智子のことになると、まるで頭に血が上ったようになって、とても冷静ではいられなくなる。
「そ、それで智子は…? 最近、と言ったがいつから…?」
潤は医大を卒業した、列記とした医者だ。
今は、父様の知人が経営している病院の、研修医として働いている。
その潤なら…
「丁度俺がこの屋敷に住み始めた頃からだから…一週間は経っているかな」
そんなに長く…?
なのに誰も僕には知らせをくれないなんて…
きっと母様が口止めしたんだ。
母様は僕と智子が兄妹以上に仲良くするのを嫌っていたから。
きっとそうだ。
「で…、容体は? 貴方は医者だ、当然診察されたんでしょ?」
「いや、それが…」
潤が途端に口籠り、その彫刻のような顔を曇らせた。
「俺も一応医者の端くれとして診察を願い出たんだが…」
顎を手で摩りながら、潤が何度も首を傾げる。
「智子が拒んだ…のか?」
「いや、そうじゃない。義父上から言われてな…」
父様が…、どうして…?
智子の身体を、あれ程気にかけていた父様が何故…