第6章 宿望…
二宮君は、大学進学の夢が叶わず、暇を持て余していたのか、僕の部屋を頻繁に尋ねて来てくれた。
どうやら、親元を離れて一人で暮らし始めた僕が、どうにも心配だったらしい。
そりゃそうだ…
僕は一人では、洗濯一つも満足に出来ないのだから。
二宮君はいつも僕の部屋を尋ねる時には、店の残り物だと言って、簡単な惣菜を丼一杯に詰め込んで持って来てくれて…
当然、それまで料理なんてしたことのない僕にとっては、とても有難いことだった。
時には、高校時代の学友、相葉雅紀が一緒に尋ねて来ることもあった。
はっきりとは言わないが、二人はどうやらあの時からずっと、密かに交際を続けているらしく、その仲睦まじい姿を目の前で見せられると、僕の胸は俄に傷んだ。
同じように許されない関係なのに、どうして僕は…
兄妹であるがために、僕は諦めなくてはならなかったのに、どうして…
二人が部屋を出た後、僕は必ずと言っていい程、狭い部屋の片隅で、薄い布団を頭から被り、声を殺して泣いた。
“兄さま…”
鈴の音のように、澄んだ声を思い出しながら…
あの天使のような、愛らしい笑顔を思い浮かべながら…
そして、たった一度だけ触れた、柔らかな唇の感触を思い出しながら、僕は涙が枯れる程に泣いた。