第6章 宿望…
智子への想いを胸に秘めたまま時は流れ、僕は大学進学と同時に家を出た。
母様は激しく反対したが、父様は後学のためならばと、僕が家を出ることを許可した。
家を出る時、智子は酷く泣いて、僕を引き止めようとしたけど、僕はそれを振り切るようにして家を飛び出した。
後ろ髪を引かれなかったわけじゃない。
でもそこで躊躇ってしまっては、僕の大きくなり過ぎた智子への想いが爆発してしまう…
そう思ったら、足を止めることなど出来なかった。
敢えて…なのか、僕には知らされていなかったが、智子と潤の婚礼の準備が、僕の見えない所で着々と進められているのを、僕は知ってしまったから…
僕が傍にいては、智子の幸せの妨げになってしまう。
智子を愛しているからこそ…
智子の幸せを心から願っているからこそ…
僕はこれ以上智子の傍にいてはいけないんだ。
僕は智子への想いを、胸の奥深くに仕舞いこんだ。
僕は二宮君の家の近くに部屋を借りた。
部屋の間取り全てを足しても、僕の部屋よりも小さくて、所々で畳の擦り切れた部屋を…。
それでも、そこが自分だけの城だと思ったら、少々の住み心地の悪さなんて、全く気にならないどころか、寧ろ快適な空間にすら思えた。
結局のところ、智子と離れられるならば、場所なんてどこでも良かったんだ。