第5章 妬心…
「兄さまと一緒なら、智子きっと眠れるわ…」
僕の背中に、智子の細い腕が回る。
それはまるで僕を締め付ける茨のようで…
「いけないよ、智子…。そんなことをしたら母様に叱られる…」
それでなくても、智子と床を共にするなんて…
そんなことをしては、僕はもう自分自身をおさえられなくなってしまう。
ああ…僕は一体どうしたら…
「兄さま…、やっぱり智子のことがお嫌いなのね? だから…」
とうとう零れ落ちた涙が、月明かりに照らされて、智子の頬でキラリと光る。
「泣かないでおくれ? 僕は…僕は…」
違うんだ智子…、僕は智子を愛してるんだよ…
決して口にすることの出来ない言葉を心で叫びながら、僕は智子の小さな身体を抱き上げた。
「兄…さま…?」
眠るまでだ。
智子が眠るまで…
ほんの僅かな時間でもいい…
どうか僕に…僕と智子に時間を…
「あ、お人形が…」
ベッドに智子を下ろすと、智子が思い出したように床を指差した。
「待っておいで? 僕が拾って来るから」
薄い寝間着姿の智子に布団をかけ、僕はベッドから離れると、手探りで床に落ちた人形を拾い上げ、再び智子の眠るベッドへと戻った。
「ほら、智子の大事なお人形…」
いつかの智子の誕生日に、母様がお祝いに贈った人形を、智子の手に持たせてやると、智子は愛おしそうに頬を擦り付け、胸に抱いた。
「いつまで経っても智子は子供だね?」
そんな無邪気な姿さえ、僕には愛しくて堪らない。