第5章 妬心…
いつもよりも少しだけ窮屈になったベッドに身体を横たえる。
すると智子が僕の胸に抱き付いてきて…
柔らかな巻き髪が僕の鼻先を擽る。
「寒くないかい?」
智子の首の下に腕を差し込んで、小さな肩をそっと抱いてやる。
「寒くなんてないわ? だって兄さまがこんなに近くにいるんですもの」
「そうか。さ、早くお休み? 少し早めに起きて、お部屋に戻らないと、母様に叱られてしまうよ?」
もしもこんなことが…智子と床を共にしたなんて母様が知ったら…
きっと母様は智子を厳しく折檻するだろう…
そう、あの時みたいに…
もう二度と智子にあんな思いをさせたくない。
「おやすみなさい、兄さ…ま…」
柔らかな髪を撫で、背中をまるで小さな子供をあやすように叩いてやると、すぐに智子の規則正しい寝息が聞こえてきて…
僕の寝巻をキュッと握った手をそっと解くと、僕は上体を少しだけ起こして、その可愛らしい天使のような寝顔を見下ろした。
今だけだ…
僕だけの天使…
今だけは…
この瞬間だけは、誰にも触れさせやしない…
僕は小さな寝息を立てる智子の唇を、智子が起きてしまわないように指の腹で撫でると、そっとその唇に自分のそれを重ねた。
初めての口付け…
それはまるで綿あめのように柔らかくて、甘くて…
少しだけ涙の味がした。
『妬心』-完-