第5章 妬心…
その晩…、潤とその両親が帰った後、僕は一人部屋の片隅で膝を抱えた。
きっと僕には耐えられないだろう…
智子が僕以外の男に笑顔を向けることに…
僕以外の誰かを愛することに…
例えそれが智子にとって一番の幸せであっても…
僕には…、今の僕には無理だ。
ならば僕はどうしたらいい…?
妹に対して、決して許されない感情を抱いてしまった僕は、どうしたらいい?
智子を愛してしまった僕は…どうしたら…
どうにもすることの出来ない感情が、涙となって溢れてくる。
胸が張り裂けそうに苦しくて、痛くて…
この止めどなく溢れる涙と一緒に、智子への思いも流れ落ちて行けばいいのに…
そうしたら僕は、楽になれるのに…
涙で濡れた頬を両手で覆った、その時だった。
部屋の扉が叩かれ、灯りさえ点していない真っ暗な部屋に、一筋の光が差し込んだ。
「兄さま…? 智子よ? いらっしゃらないの?」
そして聞こえたのは、まるで鈴の音のように清らかで、透き通った智子の声だった。
僕は智子に気づかれないように鼻を一つ啜ると、頬を濡らす涙を腕で拭った。
「兄さま…? どこなの? 兄さま…」
今にも消え入りそうな声が、少しだけ震えているような気がして…
僕はすっかり重くなってしまった腰を上げると、智子を驚かさない様にそっと歩み寄り、その小さな肩を抱き締めた。