第5章 妬心…
両家の堅苦しい形式ばった挨拶も済み、簡単な宴席も終えると、潤が徐ろに腰を上げ、智子に向かって右手を差し出した。
「智子さん、少し散歩でも如何ですか?」
「えっ…?」
潤の誘いに、智子がそれまでずっと俯いたままだった顔を、驚いたように上げた。
困惑しているのが、繋いだ智子の指先から伝わってくる。
「でも、智子…」
智子の潤んだ目が、縋るように僕に向けられる。
でも僕にはどうして上げることも出来ず…
ただ、握った手に力を込めることしか出来なかった。
なのに…
「それがいい。智子、潤君と庭でも散策してくるといい」
父様の、いつになく高揚した声が潤の背中を後押しするように響き…
それ以上は逆らえないと観念したのか、智子がの指が僕の手から、ゆっくりと離れて行くと、もう一度差し出された潤の手にそっと重ねた。
つい今しがたまで、あの小さな手は僕のこの手の中にあったのに…
智子の手を握ったまま、座卓を回り込んで来た潤が、智子の隣で片膝を着く。
僕がすぐ横にいるというのに…
「さ、行きましょう」
「…はい」
小さく答えて、智子が長い髪を揺らして立ち上がる細い腰に、潤のしなやかに伸びた手が添えられた。
なんて気障(きざ)な…
瞬間、僕の胸が焼けるように熱くなって…
怒りとも、憎しみとも分からない感情が、どす黒い渦を巻きながら湧き上がった。