第5章 妬心…
俄かにざわつく胸を抱えたまま階段を降りると、丁度その時玄関の扉が開き、一張羅の背広に身を包んだ潤と、仰々しくも紋付き姿の高齢の夫婦が屋敷の中に足を踏み入れた。
「遠路はるばるようこそ。さ、こんな所で立ち話もなんなので、こちらへ…」
挨拶もそこそこに、僕達は父様を先頭に奥の座敷へと向かった。
その間も母様は表情一つ変えず、俯いたまま顔を上げようとしない智子を横目で見ては、溜息とも吐息とも区別のつかない息を吐き出した。
一方潤の両親はと言うと、余程こういった場に慣れていないのか、視線を定めることなくあちこちを見回しては、感嘆の声を漏らすばかりで、座敷に入ってからもどう振る舞っていいのか分からない様子で…
父様が促すと、漸くその腰を座布団の上に落ち着けた。
片田舎で診療所を経営しているとは聞いていたが、これほどまで家柄が違うなんて…
幼い頃に櫻井の家に連れてこられてから、この屋敷以外の世界を知らない智子にとっては、酷以外の何物でもないではないか…
僕は膝の上で握ったままの智子の手に自分の手を重ねると、座卓の下でそっと包み込んだ。
智子、大丈夫だから…
僕が守るから…
そうだ、智子はまだ十三。
何も今すぐにお嫁に行くわけじゃない。
まだ時間は残されている筈だ。
それまでに僕が…
僕が今よりももっと大人になればいい。
そして智子を…