• テキストサイズ

愛玩人形【気象系BL】

第5章 妬心…


部屋に戻った僕は、それまで着ていた服を脱ぎ、学生服を着込み、洗面台で髪を少し湿らせた後、そこにポマードを薄く伸ばした。

本当はありのままの僕でいたいのに…

それでも父様には逆らえない無力な僕は、父様の教え通りの”櫻井家の名に恥じない息子”を演じなくてはならなくて…

そんな自分にほとほと嫌気が差してくる。

いっそのこと、このまま逃げ出してしまおうか…
智子を連れて…

今の僕にそんなこと出来っこないのを承知で、鏡の中の情けなく眉を下げた自分に問いかけた。

「坊ちゃま、ご準備はお済ですか?」

扉を叩く音がして、照が顔を出す。

「お客様はもう…?」

鏡越しに照と視線を交わし、学生服釦を上から順にかけて行く。

「いえ、まだですよ? でももうお見えになる頃だと…」

「そうか。僕もすぐに下へ行くよ。

…あ、ちょっと待って?」

僕の返事を待って、照が深々と頭を下げ部屋を出ようとするのを引き留める。

「何でございます?」

「いや、照は知っているのか…? その、智子の秘密を…」

照は古くから櫻井家に仕えているし、何より母様に代わって僕達兄妹の世話を長くして来た。

照なら智子の秘密が何なのか…もしかしたら知っているのかもしれないと…

そして僕の予感は、見事的中した。

「な、何を仰いますか…。私のような女中がそんな…」

途端に口籠った照の顔は、動揺の色を隠しきれず、咄嗟に踵を返すと、まるで逃げるように着物の裾をはためかせて廊下をかけて行った。
/ 263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp