第5章 妬心…
「智子…」
僕は堪らず智子に駆け寄り、その小さく震える肩を抱き寄せた。
「兄さま…、智子…お嫁になんか行きたくない…」
僕の胸に顔を埋め、智子が声を震わせる。
ああ…、なんて可哀想に…
出来る事なら僕がここから…
でも今の僕にそんな力はなくて…
悔しいけど…
「さあ、もうそんなに泣かないで?可愛いお顔が台無しだ。それに、父様だって今すぐに智子をお嫁に行かせるつもりではないだろうし…」
だって智子はまだ十三になったばかり。
恋がどんな物かも知らない、幼い娘だ。
そんな智子をお嫁になんて…
僕は智子の長い髪を指で梳きながら、背中を摩った。
「違うの…。そうじゃないの…。智子、潤先生好きよ? でも、智子の秘密を知ったら、きっと嫌われるわ…」
潤が好き…
その一言が、僕の胸に深く突き刺さる。
「それに兄さまだって…」
「僕…? 僕が智子を嫌いになると…?」
僕の胸に顔を埋めたまま、智子が小さく頷き、大粒の涙で潤んだ目で、僕を見上げた。
「何を言っているんだい? 僕が智子を嫌いになるなんてこと、あるわけないだろ?」
智子の言う“秘密”が何なのか…僕は知らない。
でもそれを知ったからと言って、僕の智子を愛する気持ちが消えて無くなることなんて…絶対にない。
「本当? 兄さまは本当の智子を知っても、嫌いになったりしない?」
「勿論だよ」
力強く答えると、小さな身体を抱き締めた手に力を込めた。