• テキストサイズ

愛玩人形【気象系BL】

第5章 妬心…


逆らえる筈がなかった。

父様が僕の意見に耳を傾けたことなど、今までだってただのいちどかもなかったじゃないか…

僕は悔しくて震える拳を隠すことなく書斎を出ると、真っ直ぐに智子の部屋へと向かった。

どうしようもなく智子の顔が見たかった。

顔を合わせる事すら、躊躇っていたのに…

「智子、僕だ。入ってもいいかい?」

扉を軽く叩く…けど、中からの返事はない。

「開けるよ?」

一言断ってから、扉を少しだけ開ける。

「智子…? いないのかい?」

僅かに空いた隙間から、中を覗き込むようにして、視線を巡らせた。

すると、風に揺れるカーテンの下で、長い巻髪を腰まで垂らし、藤色に小菊の柄をあしらった振袖姿で佇む智子が、ゆっくりと首だけでこちらを振り向いた。

窓から差し込む光の加減だろうか…智子の頬が濡れているように見える。

「兄さま、智子綺麗?」

真っ赤な紅を刺した唇が動く。

「あ、ああ…とても綺麗だよ…」

嘘だ…
綺麗なものか…!

僕の智子に、こんな娼婦のような化粧が似合うものか…

「ふふ、兄さまったら、相変わらず嘘が下手ね? いいのよ、智子だって分かってるの…。こんなお化粧似合わない、って…。このお着物だって…」

ああ、やっぱり僕の見間違いなどではなかった。

智子の頬は、とめどなく流れる涙に濡れ、無理に作った笑顔は、愛らしい智子の顔を引き攣らせていた。
/ 263ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp