第1章 義妹…
「こちらに来なさい」
母様に答えることなく、その子に向かって父様が手招きをする。
それに応えるように、その女の子が草履履きの足をゆっくりと動かし始めた。
帯に付けた飾り鈴、だろうか…
女の子が歩を進める度に、シャンシャンと音を響かせた。
「父様、この子は…?」
「智子だ。今日からお前の妹になる。頼んだぞ、翔」
妹…?
僕の…、妹…?
父様が何を言っているのか分からなくて、僕は父様と、“智子“と呼ばれたの女の子を交互に見つめた。
「智子、お前の兄さんだ。うんと可愛がって貰うんだぞ?」
智子を膝の上に抱き上げ、父様が智子に向かって微笑みかける。
父様のそんな顔…初めてだ…
答えに困った僕は、縋る思いで母様を見た。
でも母様は…
「気分が悪いわ…。先に休ませて頂きます」
感情の無い顔で…
スッとソファーから立ち上がると、網掛けのセーターを、毛糸玉が入った籠ごと暖炉の中に投げ入れた。
その時、ほんの一瞬だけど…母様の顔が、まるで般若の面のように見えた。
「…母様…?」
「翔、あなたも早くお休みなさい? 明日も学校でしょ?」
見間違い…だったんだろうか…
そう言った母様の顔は、いつも通りの穏やかな笑顔だった。
でもそれが余計に僕の恐怖心を煽った。