第1章 義妹…
僕は智子をとても可愛がった。
父様に言われたからじゃない。
初めて出来た“妹”の存在が、嬉しかったからだ。
母様はそんな僕を咎めこそしなかったが、智子の存在を疎ましく思っているのは、その態度からも容易に見て取れた。
智子はいつも、僕が学校から帰るのを、玄関脇の階段の一番下に座って待っていた。
そして僕が玄関扉を開けると同時に、まるで跳ねるように僕に駆け寄っては、ふわりとした笑顔で僕を見上げた。
「お帰りなさい、兄たま」
僕は智子にそう言って貰えるのが、少しむず痒く感じながらも、嬉しくて堪らなかった。
智子が来る前までは、照以外僕を出迎えてくれる人なんていなかったから。
「ただいま、智子」
僕がそう言うと、智子は抱っこをせがむように、僕に向かって両手を伸ばしてくる。
でも僕の手は学生鞄で塞がっていて…
「駄目だよ、智子。まずは鞄を部屋に置いて、着替えを済ませてからじゃないと。ね? それに、“兄たま”じゃなくて“兄さま”だからね?」
僕は指を咥えて膨れる智子の手を取ると、手を繋いで階段を上った。
そして僕の部屋の前まで来ると、
「着替えてくるから、ちょっとだけここで待ってて?」
そう智子に言い付け、僕は自室へと入った。
いくら兄妹とはいえ、僕達は”男子”と”女子”であって、無暗に部屋へと入ることは、母様から固く禁じられていた。
僕も智子も、その言い付けを守っていた。
ずっと…