第4章 迷夢…
結局僕は二宮君の頼みを断ることも出来ず、鞄の底に相葉君への恋文を隠して帰路に着いた。
屋敷に戻った僕を出迎えたのは、鬼のように顔を歪ませた母様と、泣いていたのだろうか…瞼を真っ赤に腫らした智子だった。
「櫻井家の長子ともあろう者が、こんな夜更けまで何をしていたの?」
僕を諫めるような母様のきつい口調に、半ば辟易とした僕は、大した言い訳をする気にもならず、何も答えることなく二階へと続く階段に足をかけた。
その時だった…
僕のズボンの裾を、智子の小さな手が掴んだ。
「離してくれないか? 僕は疲れているんだ」
冷たく言い放つと、智子は何をいう訳でもなく、ただ指を咥えて僕を見上げては、その白い頬を濡らした。
ああ…、どうして…
どうして智子は僕の妹なんかになってしまったの?
妹でなければ、今すぐにでもこの腕に抱き締めて、その頬を濡らす涙を拭ってやれるのに…
君を他の男の元へなど、行かせやしないのに…
僕は強引に智子の手を振り払うと、残りの階段を一息に駆け上がった。
小さな足音が後を追って来るのを、背中で感じながら…
自室の扉を乱暴に開け、後ろ手に閉めると、まるで全身の力が抜けてしまったかのように、僕はズルズルとその場にへたり込み、一人声を殺して泣いた。
閉ざされた扉の向こうに、智子の存在を感じながら…