第4章 迷夢…
「ところで…」
二宮君が一つ咳払いをしてから切り出す。
「今日誘ったのは他でもない、お前に頼みたいことがあってな…」
「僕、に…?」
殆ど言葉を交わしたこともない僕に、頼みたいことって何だろう…?
「これを渡して欲しいんだ」
戸惑いを隠せずにいる僕に、二宮君が学生鞄の中から取り出した封筒を差し出す。
「誰に…?」
二宮君から受け取った封筒には、差出人の名前は愚か、受取人の名前すら書かれてはいない。
これでは届けようがないのでは…
「雅紀に…、相葉雅紀に渡してほしいんだ」
「相葉君に? でも、相葉君は同級じゃないか…」
学校に行けば、顔を合わせるんだ。
直接渡すことだって可能な筈。
なのにどうして僕に…?
「理由は聞いてくれるな…」
元々色白な二宮君の頬が朱に染まり、それを隠すかのように二宮君が僕に背を向ける。
その時になって、僕は漸くその”理由”に気付いた。
「もしや君は…相葉君のことを…?」
だとしたらこの手紙は、二宮君から相葉君に宛てた恋文。
ならば尚のこと…
「直接渡した方がいいんじゃないか? その方が相葉君だって…」
歓迎はしないまでも、二宮君の気持ちは伝わる筈。
「所詮は道ならぬ恋だ。受け入れてくれる筈がない」
道ならぬ恋…
その一言が僕の胸に突き刺さった。
妹を…智子を愛してしまった僕の胸に、深く深く…
何処までも深く…